昔話

あの頃の自分に言ってやりたい。

自分は特別な存在なんかではない。

諦めなければ、いつか成功できる。何者かになれる。そんなものは漫画の読みすぎによる幻想だと。

現実はいくら妄想しても行動しなければ何も変化しない。

『いつか』は永遠にやってこない。

都合よく運命の人が現れることは無いし、ドラマティックな逆転劇も無い。

僕はいつか、映画スターやロックスター、金持ちになれると信じていた。

自分はまだ本気を出していないだけ。本気でやれば何だってできる。

人生の主人公は自分だ。物語は素晴らしい展開をしていくはずだ。

全部まやかしだ。

自分の弱さを肯定するために、現実が歪められていく。

言いたいことも言えずに、やりたいこともできず、惨めで、弱々しく、朝起きて仕事に行って、文句を言って、愛想笑いを浮かべて、ムカつくやつに頭を下げる。それでも一向に良くならない日々。

泥沼から抜け出す術を知らず、ただ沈まないように必死にもがくばかり。

そんな日々を、自分の弱さを肯定するために素晴らしい夢物語が編纂される。

諦めていなければまだ希望があると、漫画の読みすぎでイカれた頭が、くだらない物語をでっち上げる。

そして、『いつか』きっとやってくる大逆転を夢見るばかりで、時間だけが過ぎ、何もかも失っていく。

ただ、失ってみてわかったが、それは気のせいだ。僕は最初から何も持ってなどいなかった。

持っていない物を失うことなどできない。

勝手に心の拠り所にしていただけだ。自分の物だと信じたかっただけだ。

実につまらない、よくある話だが、ずっと一緒にいられると信じていた彼女を、知人の男に奪われた。

今まで、必死に自分の無力さを思い知るのを避けてきたが、その一件で現実を嫌という程思い知らされた。

依存されていると思っていた相手は、いつの間にか、自分の寄る辺になっていた。依存していたのは僕の方だった。

彼女は去り、弱い自分だけが取り残された。

無力で、劣等感にまみれ、何もすることができずに、自分を呪い、他人を憎んだ。それしかできなかった。

ちっぽけなプライドは崩れ去り、僕は粉々になった。

あれから、一つずつ拾い集め、組み立て直した。

あの頃の僕が、今の僕を見たらどう思うだろうか。

多分、嫌いだろう。

いつの間にか、僕はあの頃の自分とは相容れないものになった。

現実を直視した結果、嫌悪していた存在になった。

それを悲しいとか、そうは思わない。

弱かった僕は、幻想の世界で生きていた。

現実を自分の都合のいいように歪めて見ていた。

闘うことを避け、自分は特別なんだと信じ続け、可能性を延命させていた。

今の僕はただ、現実的になっただけだ。

だから今、あの頃の自分にこう言ってやりたい。

残念ながら、お前は特別な存在なんかじゃない。

何もせずに利口ぶっているだけのクズだ。

妄想するばかりで、何もやっていないお前が掲げる理想なんてクソだ。

机上の空論。弱者の理論でしかない。

現実を捻じ曲げるな。直視しろ。

そうしなければ、死んだほうがマシだと思うくらい高いツケを払うことになる。

まあ、それでも痛い目を見ないと学ばないんだろうけどな。

今では、その出来事にも感謝している。

おかげでようやく目が覚めたよ。

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